4000人を超える使節を引き連れて来日したサウジアラビアのサルマン国王。
今回の大型訪問の目的は日本との経済協力関係を一層深いものにするためだと言われています。
しかし、実際のサウジアラビアと中東情勢を観察してみると、ただただ日本と経済関係強化のみを目的にやってきたわけではないと感じられます。
そこで、今回はサウジアラビアが現在置かれている状況と国王自らが大型の外遊に勤しむことになった要因を探っていこうと思います。
石油だけでは王国を支えきれなくなった?
さてサウジアラビアといえば石油で大儲けしている国だと考えている人も多いかもしれません。もちろんその通りと2014年までは言えました。
言えましたというと2014年に石油価格が急激に下落し、現在はそこまで大儲けできていない現状があります。
今までのサウジアラビアは石油からの莫大な利益のもとに、それを国民に還元することで王族が政治を独占してきました。
国民は税金を収めることも、政府から納税を求められることはほぼなかったので政治的権利を求めることはありませんでした。
(ただ注意しなくてはいけないのですが、税金は求められることはないのですが、宗教的な義務である喜捨は求められていました。)
つまりサウジアラビアはこれまで「代表なくして課税なし」とは逆に「課税なくして代表なし」が成立している数少ない国だったのです。
しかし、今では石油がもたらしてきた莫大な収入が大きく減ってしまい、高福祉政策を実現することができなくなってしまいました。
そのため、今のままいけば王族による政治権力独占を許してきた手厚い社会保障が実行不可能になってしまいます。
そのことに危機感を抱いたサウジアラビア王家は、石油依存からの脱却のため国王自らが大型使節団を率いてアジア各国と経済協力関係を強めようとしているのですね〜。
そして、これが今回の46年ぶりのサウジアラビア国王来日につながっていくのです。
サウジアラビアの日本では見えにくい危機
さてサウジアラビア国王の来日目的は経済協力と大きく報道されていますが、これは間違い無く正しいです。
ですが経済協力のみが来日の理由といえばそうではありません。
サウジアラビアの現状を考えると経済協力以外にも大きな理由があったから国王自らが来日したと考えられます。
さて、その理由は何か?
それは宮廷闘争とIS(いわゆるイスラム国)も絡むことになる安全保障政策が隠れたサウジアラビア国王の来日理由といえます。
(隠れた理由というよりは、大型使節団の来日による経済効果のみを追いかけているメディアが報道し忘れている理由といったほうが正しいでしょうか…)
王国の血も涙もない宮廷闘争
さて理由その1は「権力闘争」。
王国だから「宮廷闘争」とも言えるかな。(宮廷闘争ってなんとも言えない響きですよね〜)
サウジアラビアには皇太子と副皇太子がおり、慣例では皇太子や副皇太子は現国王の兄弟が選ばれてきました。
しかし、サルマン国王は副皇太子に自分の息子のムハンマド・ビン・サルマーンを指名しました。
これには王族の長老格は反発するんですね〜。(当然ちゃ当然ですよね、自分よりも若い奴が至尊の玉座への道が見えているとなれば反発を持たない人間の方が少ないでしょう)
さて、ここで当代の国王とその息子の副皇太子は自分たちの権力基盤を盤石なものにすることをしっかりと考えるのですね。
それが今回のサウジアラビア国王その人の来日、ひいてはアジア歴訪につながるのです。
それがどう繋がっていくのかというと…。
サウジアラビアは先ほどもあげたように石油によって強力な王権、さらには国そのものを成立させてきました。
ですが、石油価格の崩壊によって現在はそれまでの貯蓄を弄りながら王国の運営を行っています。
そこで、サルマン国王と息子の副皇太子はこの危機的状況を利用し権力の確保に努めるようになるのです。
そのために、「vision 2030」と題された石油依存から脱却するための経済政策を打ち立てたのです。
この計画の内容は簡単に言ってしまえば、今までの石油に依存した経済体制から金融立国へ転換することを目的としています。
「vision 2030」がうまくいけばサウジアラビアの経済は建て直されますし、王国の経済体制は石油価格が崩壊しても被害は少ないものに変質します。
そして、この計画を先導するのが現国王の息子である副皇太子なのです。
つまり「vison 2030」の成功は経済体制の変革だけでなく、この功を持って現国王は最大の目的である息子への王位継承を確かなものにしようと考えられます。
で、今回の国王による来日及びアジア歴訪で「vision 2030」をにらんだ経済協力関係を各国と構築するのではないのでしょうかね。
相互不信になりつつある安全保障〜サウジアラビアとアメリカ〜
さて、サウジアラビア国王来日の隠れた第2の理由は安全保障。
サウジアラビアは日本と同じくアメリカと同盟を結んでいます。
この同盟に基づきアメリカは忠実にサウジアラビア王国を防衛してきました。(実際には米軍はサウジアラビア国民を守るといよりは王族や石油を守るために駐留しているといったほうが正しいでしょうか…)
しかし、この同盟を揺るがす事実が発生しています。
それはIS(イスラム国)やイランの核開発問題です。
2014年に建国を宣言したISですが、アメリカはその打倒のためにそれなりに頑張ってきました。しかしアメリカの努力にかかわらずISはそれなりの規模を維持してきました。(今では相当、弱体化していますが)
そこで、アメリカは疑問に思います。「なぜISは潰れないのか?」と。そしてこう考えるのです、「誰かがISに協力しているに違いない!」と。
そこで容疑者と影で言われていたのがサウジアラビアです。
なぜアメリカは同盟国を疑ったのでしょうか。その理由はサウジアラビアの国是が挙げられます。
サウジアラビアはイスラーム教のワッハーブ派を国教と定めています。このワッハーブ派はスンナ派を代表する4法学派の中でも、最も原理主義的な学派として知られています。
ですので、ワッハーブ派の教義とコーランを字義通りに解釈するISの宗教的イデオロギーは非常に近いものになっています。
それゆえ、アメリカはサウジアラビアが影でISを支えているのではと疑うようになるのです。(ただ、サウジアラビア政府としてはISの最高指導者バグダディがカリフに即位する宣言をしたことで敵視していたと思います。
バグダディを放っておけばサウジアラビア王家に正当性をもたらしてきたイスラーム信仰の守護者という地位が間違いなく脅かされるので。
実際にIS討伐の有志連合に参加目していましたし…。
ただ、国是としてワッハーブ派を信奉しているのでISに共感しやすい土壌があります。ですから、国民の一部がISに資金提供をしていても不思議ではありません。)
また過去にはオサマ・ビン・ラディンの存在が同盟に暗い関係を落としています。
9.11の首謀者ビン・ラディンはアメリカにとってはヘイトマックスな存在でした。そのビン・ラディンは実はサウジアラビア出身なのです。(9.11について詳しい記事はこちら)
同盟国の国民にあれだけ大規模なテロを起こされたら、同盟の意義を疑いたくなりますよね。
しかも9.11の容疑者の大部分はサウジアラビアの出身でしたので、アメリカは一層同盟の意義を疑っていたでしょう。
このようにアメリカはサウジアラビアを怪しい存在と思うには十分な過去や事実がありました。
一方サウジアラビアもアメリカを疑うようになる事件がありました。それはイランの核開発容認です。
サウジアラビアは先ほども述べたようにワッハーブ派を信奉しており、シーア派の存在を否定しています。
そんなサウジアラビアにとってシーア派の強国であるイランに核開発が認められるなんて悪夢そのものと言えたでしょう。
イランの核開発協議において、アメリカはイランの核開発を拒否すると信じていたサウジアラビアにとっては同盟への不信感を持ってもおかしくはないでしょうね。
(サウジアラビはイラン革命後のイランをより敵視しています。理由はISを敵視したものと同じでホメイニ革命後のイランがシーア派といえどもイスラーム世界でイニシアチブを握る可能性や、イラン革命に影響を受けてサウジアラビ国内で王政打破の運動が危険視されたからです。)
こんな感じに相互に不信感を持っている同盟なので、サウジアラビアは保険をかける意味でも今回大々的な外交を行ったのではないのでしょうか。
(そうすることでアメリカに自分たちを裏切るなよと圧力をかけることができるでしょうし…)
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