書評 <不在者>たちのイスラエル

book パレスチナ問題

この本の大まかな内容は言ってしまえば、シリアへの留学経験を持つ著者の田浪亜氏がイスラエル社会とそこに住む人々を、一言では言い切れない様々な感情を前面に出しながら描写した本ですね〜。作者のイスラエル、ユダヤ人、そしてアラブ人に対しての複雑に絡みあった感情を前面に押し出した文章だからこそ、自分も著者がもつ葛藤が時には大いに共感したり、逆に反発したりしながらも読み進めることができたかと。

 

その中でも、著者がアッカという都市に訪れた際に街全体がイスラエルによって作り変えられていることに感じた憤りが、「イスラエルでは、アラブ人の歴史を奪い、観光地でオリエンタルな雰囲気を提供してくれる都合のいい他社として従属させようとする力が常に働いているのだ」という主張からにじみ出ていたように思われた。自分としては憤りよりもイスラエルはアラブから土地だけでなく、文化も収奪しているという事実に驚きを隠せなかったんですね〜。

 

イスラエルがアラブから土地を収奪したのはシオニズムや大イスラエル主義が背景にあるからだと理解していたのですが、なぜ文化まで収奪したのかが気になってしまったわけで。

(シオニズムについてはこちらで軽〜く説明してるので良かったらどーぞ3分でわかる?シオニズム

 

イスラエルが土地だけでなく文化まで収奪したのは、著者が主張するようにイスラエル政府がアラブ人の痕跡を消してしまいたいという意思を持っているただそれだけなのか、そこらへんが気になったわけで。

自分なりの考えなのですが、アラブ人の痕跡を消し去るそれだけでなくイスラエル政府は土地と入植者であるユダヤ人を不可分なものにしたいと感じられたんですね。その理由としてはシオニズム運動、そして第二次世界大戦後、イスラエルへやって来たユダヤ人は元からいたアラブ人から意識的にしろ、そうでないにしろ土地を奪ってきたわけで。そのことは彼らに違和感を抱かせているのではないのかな〜なんて。実際、広河隆一氏の「パレスチナ新版」やこの「〈不在者〉たちのイスラエル」でも、ユダヤ人は意識的に土地の収奪に口を閉ざしているとありますからね。こういったことからイスラエルに住むユダヤ人が、アラブ人から手に入れた土地に対しての違和感、ズレみたいな気持ちを表しているんじゃないのかな〜なんて感じたりして。

 

だからこそ、イスラエル政府はその違和感、良心の呵責を消し去るために土地と入植者の関係を生み出すことに腐心しているのではないだろうかと。その土地にあったアラブの文化をユダヤナイズ、ユダヤ人のものに再生することで、土地と入植者に連続性を生み出すことができるわけでして。それによりその土地は連綿とユダヤ人のものだった錯覚するようになり、違和感をもたなくなるのではないかと。

つまり、文化の収奪は土地の収奪のうしろぐらさを綺麗にする、洗浄するのに必要だったから行われたのだろうとね。

 

文化の収奪についてだけでなく、イスラエルの数多くの歪さと著者の複雑な心情に重なり合うように(重なり合いながら)イスラエル社会をありありと描写し、何かを問いかけてくる勢いがこの本の最大の魅力に感じられたわけですね〜。

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